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2017年2月15日

~日本語を日本語で教える~ 日本語教師が行う訓練

<日本語教師は英語ペラペラ??>

「わたしは日本語教師です。」というと、「英語が話せるんですね!」という反応をよくされます。
ですが、残念ながら私は英語が話せません。
「じゃあどうやって教えるの?」と、ときには少し不審な目で見られます。

語学の教授法には「間接法」「直接法」の二種類があります。
間接法は学習者の母語を使って教えるスタイルです。日本人の先生による学校での英語の授業がイメージに近いかと思います。
一方、直接法は学習者の母語は使用せず、目標の言語だけで教えていきます。ネイティブの先生による英語の授業や、海外留学先の授業はこのタイプが多いのではないでしょうか。

間接法、直接法のどちらもメリットがありますが、国内の日本語学校には、英語だけでなく様々な母語の人が勉強しにくるため、日本語教師養成講座では日本語のみで日本語を教える「直接法」での教え方を指導しているところが多いです。

「日本語で教える」とはいえ、当然、学習者が知らない日本語は使うことができません。言葉だけでなく、絵や動画、シチュエーションを駆使します。その日の文型の意味や使い方を学習者に「教える」というより、「気づかせる」といった方がしっくりくるかもしれません。そのためには、文型がどんな場面で使われるか、似た意味の表現、同じ文型でも複数の意味を持つケース、例外などなど教師側の研究が非常に重要です。

授業で学生に伝える知識はほんの一部であり、その周辺に教師側は何倍もの知識を備えていなければなりません。

<学校で教えられること>

 

ところで、ここで改めて日本語教師が教えられることについて考えてみましょう。もちろん日本語を教えるわけですが、具体的にどんなことでしょうか。

まず真っ先に思い浮かぶのが「文法」。
たとえば「~てください」の意味、作り方、使い方などなど。
文法の他にはどうでしょう?
漢字。意味、読み方、書き方。その通りです。ほかには?

日本語教師というとまず「文法」や「漢字」といったものを教えることが中心と思われがちで、使用する教科書も表面上はそういったことを中心に扱っているように見えます。
ですがそれを実用するためには、日本人との接し方や文化などにもある程度理解がなければなりません。
そういったことを考えると、教師が学習者に指導するものは文法や漢字をはじめ、発音、会話の仕方、読解、聴解、作文の書き方、発表の仕方、マナー、習慣、時事問題、地域の話題など実に多岐に渡ります。
こういったものを指導するためには、文法中心の教科書を使用する場合は特に教師側が気を付けて、授業の中に様々な活動を織り込んでいく必要があります。
といっても文法と全く切り離した授業が必要なのではなく、先生から「習った」文型を「使う」作業を取り入れればいいのです。ここにも教師それぞれの工夫がみられます。

具体的な例として自己紹介を考えてみましょう。
自己紹介は名前と出身だけでなく、使える文型が増えるにつれて、趣味や将来の目標など、どんどん味付けができます。
この自己紹介で学習者は何を学ぶことができるでしょうか。

・文型の確認
・文全体の構成
・発音

<全体の前で発表するとき>
・大勢を前に発表する際のマナー
・発表の際の話し方(スピード、声の大きさなど)
・発表の際の立ち居振る舞い(立ち方、視線、身振り手振り)
・発表の聞き方

<一対一での自己紹介のとき>
・ボディランゲージ(お辞儀など)
・相手への質問の仕方
・名刺の受け渡し

・・・
など、教師が設定したシチュエーションにより、教えられることも変わってきますが、とにかくさまざまな可能性があります。
せっかく習った文型を使うには教師が積極的にこういった機会を用意してあげなければなりません。
学習者も「文型を覚えた」だけでなく「文型を覚えたから○○ができた!」の方がはるかに達成感、また次の学習へのモチベーションをもつことができるでしょう。

学習者に教えるものは前述のように多岐に渡りますが、学びのチャンスは学校が全てではありません。
学校で学んだことを学校の外で使い、生の日本と触れることで、学習者は学校での勉強の何倍も多く深く日本語や日本の文化を学ぶことができるでしょう。
教師はその第一歩、学校の外で日本語を使うための訓練を任されているのです。